アルバイトの記録:ハンバーガーから得た教訓 - 記事一覧 | APU 立命館アジア太平洋大学
アルバイトの記録:ハンバーガーから得た教訓
私はベトナムの首都ハノイにある一般の高校を卒業してAPUに入学しました。来日するまでは、学校で勉強して、帰りは親に迎えに来てもらうということを繰り返す日々で、何不自由ない生活を送っていました。当時の私にとって大きな挑戦といえば、試験で良い成績を修めることくらいのものでした。
ところが、日本に来てからの私の生活は一変し、生活費を自分でやりくりするなど、それまで考えたこともない課題に直面したのです。日本の物価はハノイに比べると高いので、まず無駄遣いをしないようになりました。そして、ハンバーガーを作るアルバイトに出会ったのです。
お金を稼ぐことだけを目的に始めたアルバイトでしたが、働き始めて7ヶ月が経った今、当初期待していた給料に加えて、かけがえのないものが得られたことに気がついたのです。
語学力の上達
アルバイトを始めた時に一番大変だったことは日本語でコミュニケーションを取ることでした。APUへ入学してまだ半年しか経っていなかったあの頃の私の日本語レベルは、どんなによくても中級レベル。さらに、私が働き始めた店舗は留学生の採用が初めてだったので事態はより深刻・・・。特に、私が何か間違いをやらかしてしまった時の店長からの指導を聞き取るのは容易ではなく、とにかく必死でした。早く職場に慣れなければ職を失い、収入も無くなってしまうのですから。日本語でのコミュニケーションを常に求められる職場でもがき続けたことで、環境にも早く慣れることができました。その結果、私の日本語は自信を持てるレベルにまで劇的に向上したのです。
日本らしい働き方
話は変わりますが、みなさんは日本のファストフード店でどのようにハンバーガーが作られているのかをご存知ですか?え?すでに工場で作られたものを店員が包むだけ?いえいえ、そんなことはありません!そういう私も単純作業をイメージしていました。けれど、実際にはバンズの焼き加減に細心の注意を払い、美しくトッピングし、さらには包装の仕方まで綺麗に揃わなければ、完璧なハンバーガーは完成しないのです。
これはすべて、形が完璧なハンバーガーを提供することがお客様の最大の満足をもたらすと考えて行なわれているのでしょうか?
まず私は、そもそもなぜこんなに複雑な工程を採用しているのかが疑問でした。ケチャップやピクルスを挟む順番にこだわる理由が分からなかったのです。
けれど、その重要さに気づくのにはさほど時間はかかりませんでした。日本は世界の中でも最も労働倫理が厳しい国の1つとして知られています。また、日本には自分の行なうことのすべては顧客満足のためであるという日本のビジネスの本質とも言える考え方があります。それを実体験できたことは、日本の働き方についての異なる見方を与えてくれました。常連客の笑顔を絶やさないためにも日本人は顧客にとってベストなサービスを提供することに妥協を許しません。最新の技術からハンバーガーの1つに至るまで、あらゆる製品やサービスの細部にまでこだわり抜いています。感銘を受けた今の私は、一個ずつ心をこめてハンバーガーを作るよう心がけています。
心休まる場所
ちょっと聞こえはおかしいかもしれませんが、アルバイト先は私にとっての第二の我が家になりました。初対面の時、一般的に日本人は厳しくて、ちょっととっつきにくい印象があると言われています。実は私の第一印象もそうでした。しかし実際は、とっても親切な人たちです。特にそれを感じたのは自分が病気になった時。1日の中でも特に仕事が忙しい時間帯に具合が悪くなり、休憩室で身体を休めていると、同僚が白湯と薬を持ってきてくれたのです。その瞬間、家族が遠く離れていても、私のことを気遣ってくれる親切な人が周りにいてくれて、ずっと消えないホームシックが和らいでいることに気がつきました。そのシンプルだけど温かな行為は本当にありがたかったですし、仕事へのやる気が湧き出てきました。
私にとって、アルバイトとはただの働く場所ではなくて、何か問題に直面した時に支えあえる新しい家族になりました。
私は、大学生活の一部を日本ならではの完璧なハンバーガー作りの修得に費やしたことを決して後悔していませんし、むしろもっと努力が必要だと思っています。ここで得た知識や経験は私を大きく成長させてくれましたし、日本での生活の大切な思い出としていつまでも忘れません。また、3~4回生時には日本で就職活動を行なうつもりなので、日本人の労働倫理や考え方について、さらに詳しく学んでいきたいと思っています。
Do Bao Anh Thuさんはベトナム出身のAPM2回生。APUアドミッションズ・ソーシャル・メディア・ユニットのメンバーで、このブログに定期的に寄稿してくれる予定です。彼女の趣味は海沿いのウォーキング、日光浴、そして写真撮影。また、自転車で日本一周するという野望を胸に秘めています。