100年の「志」-サステナブルな未来の実装に向けて
日本最大手のJTBでは今、観光を含めたあらゆる交流を「持続可能な社会づくり」の手段へと再定義する組織変革が進んでいます。それは、単なる革新ではなく、「地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する。」という経営理念への原点回帰でもあります。
本記事では、JTBが歴史的に培ってきた理念と、現在のサステナビリティに基づく戦略的な取り組みを軸に、なぜ今、STで学びが求められているのかを、JTBグループ本社サステナリビティチーム統括の細野氏と担当マネージャー大森氏の言葉を交えて紐解きます*。
*役職は2026年2月の取材時点。
1. 創業から続くDNA:「地域とともに歩む」JTBの原点
JTBの歴史は1912年まで遡ります。「外国人誘致による国際親善」と「外貨獲得による経済発展」の旗印にもとにJTBは始まりました。観光とは単なる娯楽ではなく、国や地域の未来を切り拓くための「国策」であり、「公共性」の高い事業だったのです。
「地域とともに歩む」という精神は、時代を経て「交流創造事業」へと進化しました。現在、JTBは「交流創造事業」の中で、単なる旅行の斡旋ではなく、人・物・情報の交流を通じて地域課題を解決し、新たな価値を創出することを目指しています。
JTBでサステナビリティ推進を牽引する細野氏は、同社が掲げるサステナブルツーリズムの定義について次のように語ります。
JTBは現在、GSTC(The Global Sustainable Tourism Council® )の国際基準に準じた、サステナブルツーリズムを進めています。かつての「志」が、現在はグローバルな「基準」として明文化され、戦略的な事業運営の柱となっているのです。
2. 組織の変革:サステナビリティを「ジブンゴト化」する
理念を価値に変えるのは、現場の社員一人ひとりの行動です。JTBでは、全国各地の支店において、サステナビリティを「ジブンゴト化」するための徹底した浸透策と育成が行われています。
同社が力を入れているのが、従来の「営業職」の枠を超えた「観光開発プロデューサー」の育成です。彼らに求められるのは、地域の資源や魅力を掘り起こし、行政や住民、民間企業という異なるステークホルダーを巻き込んで、持続可能な地域経営をデザインする力です。
大森氏は、社内での意識変革とこれからの人材に求められる資質について、次のような期待を寄せています。
サステナビリティは、もはや一部の部署だけが考える特別なことではなく、全社員が日常の業務の中で意識すべき当たり前の価値観になりつつあります。特に若い世代には、社会課題を敏感に察知し、それを解決するためのアイデアを形にする『熱量』があります。私たちが大切にしているのは、地域の方々と同じ目線に立ち、課題を『ジブンゴト化』として捉える力です (大森氏)
この「ジブンゴト化」を象徴する取組が、「クセモノズ」プロジェクトです。瀬戸内海の「未利用魚」を地域の宝物に変えようとするこの挑戦は、JTBの社員が地域課題のど真ん中に入り込み、新しい経済循環を作り出した象徴的な事例です。
3. 現場で具現化する「共創」の形:SICSサステナブルラウンジ
JTBのサステナビリティ経営は、商品開発(旅マエ・旅ナカ)だけでなく、地域の「受け入れ態勢」の構築にも深く関わっています。その代表例の一つが、高松市中央卸売市場内に開設された観光交流拠点「SICS(シックス)サステナブルラウンジ」です。
ここは、市場の廃材を活用して再生した空間であり、地域住民と旅行者、さらには地元のクリエイターが交差する「共創の場」です。JTBの社員はここでコンシェルジュとして活動し、地域の日常にある魅力を深く体験できる仕組みを整えることで、観光収益を確実に地域へ還元するモデルを追求しています。
細野氏は、こうした「地域還元」の重要性を強調します。
観光によって地域が疲弊しては意味がありません。オーバーツーリズムを防ぎ、地域の文化や暮らしが守られ、そこに住む人々が『観光客が来てくれてよかった』と思える仕組みを作ること。それが私たちの使命です (細野氏)
このような「泥臭くも誠実な地域密着」こそが、JTBが100年以上かけて積み上げてきた信頼の証であり、他社には真似できない強みでもあります。
- 【 協力 】
- 株式会社 JTB
- 【 筆者 】
-
三輪 仁志
立命館アジア太平洋大学
アドミッションズ・オフィス(国際) シニアアドミッションズカウンセラー
(本インタビューは2026年2月に実施したものです。)
サステナブルツーリズムとは、単に環境を守ることだけではありません。地域の文化、経済、環境のすべてを次世代につなぎ、旅行者と地域の双方が幸せになる状態を指します。その土地が持つ本来の価値を掘り起こし、持続可能な形で世の中に提示する『コーディネーター』であるべきです (細野氏)